分断される社会  

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民族や宗教のちがいによって対立が生まれ、社会が分断される傾向が危惧されている。経済的な格差社会は、富裕層と貧困層を分断する社会であり、テロや移民排斥は人種・宗教で社会を分断する差別社会を生み出す危険をはらんでいる。分断社会に関連した報道が多くなっているのではないか?

アメリカ大統領選挙が分断される社会を浮き彫りにしてきた。トランプが勝利するということは、アメリカ市民(とくに白人)の不満と怒りが勝り、既存政治を否定するということである。白人(WASP)の勝利ということだ。多様な民族で構成される移民国家と人種・宗教を超えた平等の精神を壊しかねない。

Who are We?

※日本では「分断されるアメリカ」と意訳した題名の本が出版されている。ハンティントン教授がいうのは、アメリカという国のアイデンティ変化への挑戦である。

これこそが偉大なアメリカのアイデンティティを破壊することだと、10年以上も前にハンティントン教授が警鐘を打ち鳴らしたことである。当時はこの主張は無視された。しかし、「文明の衝突」で提起された近未来も現実の世界となっている。イスラム勢力、中華思想の台頭、EU離脱、欧米とロシアの対立など世界は分断される傾向にあるが、加えてアメリカが国粋主義、保護貿易主義に舵をきればいったいどうなってしまうのか?

政治経験も外交経験も軍人の経験もないトランプ、移民排斥、女性蔑視、過激な発言を繰り返して物議をかもしてきたトランプが大統領に選出されるということは、病めるアメリカの証左なのかもしれない。アメリカが自国中心主義に走れば、自由貿易もグローバル化も減衰し、世界の安定と経済に悪影響を及ぼすことになる。

トランプ支持層


出典:産経ニュース

共和党の主流派議員たちもトランプ反対の立場であり、過激な発言で米移民、メディアの反発を招いてきた。しかし、それでもトランプを支持する人たちが、報道された世論調査では4割もいる。そのほかに隠れトランプ(Silent Supporter)が大勢いるとも伝えられている。

白人非エリート層だけでなく、クリントン支持といわれたマイノリティや女性にまで支持を広げているトランプ。どうしてトランプを支持するのか?それが第三者的な常識人の疑問であろう。トランプに反対する既存政治家、既存メディア、既存勢力(エスタブリッシュメント)への反発が、一般市民に広がっているということだ。

いまのアメリカの閉塞感、恐ろしいまでの格差(1%の富裕層が富の90%を占める)を作ってきたのが既存勢力だ、その代表がクリントンだとの認識があれば、クリントンは大統領になっても何も変えられない。オバマの政治路線を踏襲するだけだ。そんな風に考える有権者がいる。

Political Correctness

※政治的・社会的に公正・公平・中立的で、なおかつ差別・偏見が含まれていない言葉や用語。職業・性別・文化・人種・民族・宗教・ハンディキャップ・年齢・婚姻状況などに基づく差別・偏見を防ぐ政治的発言。

トランプなら流れを変えてくれると期待する有権者は彼を支持することになる。彼も富裕層の一人だということは斟酌されない。政治的発言(political correctness)を考えることなく、過激な発言を繰り返しても、彼は正直だ、俺たちの気持ちを代弁してくれていると受け取る人たちがいることも事実である。

それほど既存勢力(既得権益者Establishment)に向けた不満と怒りがアメリカ市民に溜まっているということだ。その不満と怒りに迎合し、それを煽ることにより、トランプ支持者を増やそうとする戦略(選挙対策)はありうる。

そのことを知った上で発言しているのだとすれば、トランプとそれを支える選挙参謀たちはなかなかの戦略家だということだ。それを知った上でトランプは演じているのかもしれない。過激な発言は正直な発言とも言え、クリントン陣営(既存勢力)への対抗軸を分かりやすく明確に打ち出している。折衝に長けたビジネスマンのブラフ、バーゲニングポジションを勝ち取る戦略ともいえる。

トランプ選対本部


Stephen-Bannon

選対本部の人選が勝敗を分けることにもなる。ビジネスマンのトランプは人材登用に長けていると考えられる。しかし、政治分野では素人で政界の人脈はそれほど深くないのかもしれない。経験不足からミスも犯しているだろう。しかし失敗から学ぶのがアメリカのビジネスマンだ。

最初の選対本部長コーリー・ルワンドウスキ氏は6月に解任され、彼と意見が合わなかったポール・マナフォート氏が後任に起用された。しかし2ヵ月後にはマナフォート氏も辞任した。親ロシア派との不穏な関係が背景にあったからだと報じられた。

トランプは、後任に保守系ニュースサイト「ブライトバート・ニュース」のスティーブン・バノン会長を最高責任者(CEO)に、共和党の世論調査専門家で同党の顧問を務めてきたケリーアン・コンウェイ氏(Kellyanne Conway)を選挙対策の責任者に任命した。
※バノンは共和党・民主党両党から嫌われており、主流派やイスラム教徒を攻撃する過激な保守派である。「危険な政治フィクサー」とも言われる。

世論調査のプロ


Kellyanne Conway

コンウェイ氏は専門知識を発揮して、メディアの調査結果やメディアで報道されたことにとらわれず、徹底的に世論を、有権者の動態を調べ分析したのだと思う。その結果を、選挙運動に反映することで支持層を、"隠れトランプ"を掘り起こし、着実に支持者を増やしてきたのだろう。

メディアは視聴率を稼ぎ、読者を増やし、売り上げを伸ばすという視点から報道している。当然のことながら、視聴者・読者が興味を持つニュースを選択する。トランプの過激発言はメディアの格好の報道材料だということは事実である。ある意味、その部分だけがメディアに流れ誇張されていることは否定できない。


パリ11区の隣人たち

Bon Biere テラスがある地域には多民族が暮らす。イスラム教徒もいる。キリスト教徒の高校生A君(17歳)は父から、みんなと議論しなさいと薦められた。そうした結果、「議論にならない。聖書に書いてある。コーランに書いてある。みんなそういうだけである。」と不満をぶちまける。

友人は「アルジェリア人だというだけで店に入るときにチェックされる。」と憤慨する。A君は、「テロを起こすのはイスラム教徒や黒人だという偏見があるんだ。」と嘆く。女ともだちは、「テロをなくすことなんてできない。テロを防ごうとして3000人もの警官が町に並ぶのはばかげている。」 という。

テラスの常連客は、「テロを起こした犯人たちを憎悪し、怒りをぶつけるだけの人が多すぎる。なぜテロが起きるのか、その原因を考える人が少ない。」と嘆く。

〔出典〕NHKドキュメンタリー NEXT 未来のために「パリ11区の隣人たち」 2016年11月5日(土)放映