過労自殺

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電通の女性社員(高橋まつりさん24)が過労とパワハラに追い詰められて自殺した。電通では1991年にも自殺者を出している。 同じ過ちを犯す経営体質に問題がある。

残業時間が月100時間を越える勤務は異常としかいいようがない。毎日夜10時まで残業し、さらに休日出勤もしないと月100時間以上の残業にならない。勤務時間は付き00時間に及ぶことも珍しくなかったのだろう。深夜帰宅が続き、寝不足が続き、仕事のストレスが続き、息を抜く時間も、遊ぶ時間もないとなれば、死んだほうが楽だと思うようになっても不思議ではない。

彼女が所属する部署の人員が半分になり、仕事が一挙に増えたという。上司からは「君の残業時間は会社にとって無駄」といわれ、厳しい叱責を受け続けたら、だれでも追い詰められ精神的に耐えられなくなる。じつに悲しい事件である。

1991年の事件で両親が起こした損害賠償請求訴訟で、最高裁が「会社は社員の心身の健康に対する注意義務を負う」との判断を示した。それから23年も経った2014年になって「過労死等防止対策推進法」が施行された。国の対策も遅すぎるが、教訓が生かされず同じ過ちを繰り返す企業の責任は重大だ。

高橋さんが、LINEやツイッターなどで「過労」をうかがわせるメッセージを50通以上残していた。心が痛む内容である。

  • 「遺書メールに誰を入れるか考えていた」 「休日返上で作った資料をボロくそに言われた もう体も心もズタズタだ」(10月13日)
  • 「眠りたい以外の感情を失った」(10月14日)
  • 「生きているために働いているのか、働くために生きているのか分からなくなってからが人生」(11月3日)
  • 「土日も出勤しなければならないことがまた決定し、本気で死んでしまいたい」(11月5日)
  • 「毎日次の日が来るのが怖くてねられない」(11月10日)
  • 「道歩いている時に死ぬのにてきしてそうな歩道橋を探しがちになっているのに気づいて今こういう形になってます...」(11月12日)
  • 「死にたいと思いながらこんなストレスフルな毎日を乗り越えた先に何が残るんだろうか」(12月16日)
  • 「なんらな死んだほうがよっぽど幸福なんじゃないかとさえ思って。死ぬ前に送る遺書メールのCC(あて先)に誰を入れるのがベストな布陣を考えてた」(12月17日)

武蔵野大グローバル学部グローバルビジネス学科の長谷川秀夫教授(61)が「月当たり残業時間が100時間を超えたくらいで過労死するのは情けない。」という書き込みをしたと報道されている。よくもまぁこんなひどいことが言えるな!とサイトが炎上したという。同氏は元東芝(財務畑)でニトリ役員をした後、同大に就職している。人材活用や、人事、経営、グローバルビジネスの体験がないのだと思う。

同氏が書いているように、とくに高度成長時代には残業100時間も働く社員は珍しくなかったかもしれない。私も20代の頃は残業100時間は珍しくなかった。しかし、強制されたことはまったくないし、それが嫌だったり悩んだこともまったくなかった。ましてや高橋さんの上司のように、残業してやった結果を上司がけなすなんてこともまったくなかった。

ただ、人事からは労働基準法に違反するかもしれないから残業を抑えるように注意を受けることはあった。私は30代以降は海外の仕事(企画調査・開発中心)が多くなり、自分がマネージする部署の人事労務管理も担当するようになった。

米国ではDepartment Manager自らが人の採用から人事まで責任を持つ。1980年代の米国で部門の長として、それまでまったく知識も経験もない人事労務や経理、法務などにも責任をもたなければいけない職務に就いたときは、正直途方にくれた。振り返れば1987年が最大のピンチだった。せっかく採用して育成した人材を失ったり、部内でセクハラ事件が起きたり、部下から訴えられたり・・・多くの失敗と苦渋をなめた。

そのときに助けてくれたのが、人事・法務・経理のプロたちだった。社内外の講習会や、Stanford/UCBの社会人教育講座(UCB Extensionなど)も受講した。必要に迫られて学んだのだが、日本では部門の長がその必要性に気づく機会が少ないのではないかと思う。各部門長が学ばないと組織運営の資格がないという企業風土や仕組みを作ることが経営者に求められる。

労働基準法や雇用機会均等法があるが、その内容と遵守、実践に関して各部門長(すべての課長、部長などの管理職)を教育する仕組みが日本企業に普遍的にあるとは思えない。行政機関も、定期的に企業を指導、検査しているのだろうか。

米国ではたとえば雇用機会均等法に関しては、年に最低一度はEEOC(雇用機会均等委員会:Equal Employment Opportunity Commission)が企業の現場を査察していた。人事部門の指導を受けて各部門長が対応したものである。もちろん事前にEEOセミナーを受講して学習した。厚さ10センチもあるかと思われる分厚いテキストに辟易したものだ。

話が逸れてしまったが、電通の過労自殺事件では、東京労働局の過重労働撲滅特別対策班が、労働時間管理の実態を調べるため、労働基準法に基づき、電通に立ち入り調査を実施した。事件が起きる前に、再発を防止するために定期的に企業を査察するような仕組みが必要なのではないか。税務調査員が目を光らせ、脱税がないかをチェックしているように。

〔追記〕11月7日(月) 検察が電通本社と3支社の強制捜査を開始。3年前にも男性社員が過労死していた。