NHKスペシャル「そして、バスは暴走した」(2016/4/30)
国は観光立国を標榜し、2020年までに外国人観光者数4000万人をめざす。
観光を支えているのは貸切観光バス。16年前の規制緩和を契機にバス会社数は4477社に急増し、安値受注競争に拍車がかかった。年間バス利用者数 3億人。貸切バス台数 3万9000台。
事故を起こしたバスの運営会社イーエスピー(元中古車販売業) 2年前、活況に沸いていた貸切バス事業に参入した。参入要件の緩和(中古バス3台以上)で簡単に設立できた。
安値競争と杜撰な経営
運賃の下限額が規制されていたが、これを下回る価格で激しい受注競争を戦ってきた。下限額26万の半額で受注した営業部長は「下限額があることを知らなかった」と証言する。
運用管理者は、ルールを無視した運用で受注を獲得してきた。ESPは次々と中古バスを購入し、運用した。事故を起こしたバスは問題があり、メーカは「このまま使用するのは危険だ」と警告していた。そのことを社長はまったく知らなかった。利用者の命を預かる事業の責任者としてあるまじきことだ。知らないでは済まされない。
激務を強いられる運転手
事故を起こした土屋運転手の適性検査では、注意力・動作の正確さが極端に悪い結果だった。死亡事故の当事者になる危険があると指摘されていた。
土屋運転手(65)は大型バスの運転技術が未熟で、運転を嫌がっていた。妻子がいたが離婚し、借金を抱えていた。定年退職後、退職金も年金もなかった。非正規雇用でバス運転手を続けていた。バス運転手の高齢化が進み、65歳以上が44.7%を占める。
昨年6月、生活に困窮しESPに応募し採用された。運行管理者は「ドライバーの運転技術を見極めずに採用した」と証言する。10678円が命を預かる運転手の代償だった。遺骨は寺の無縁仏に納められている。
バス会社の杜撰な管理
会社には誰もおらず、出発時の健康をチェックする点呼さえもない。仕事の依頼は携帯で指示される。15日間連続で働いて欲しいと依頼されたが、途中で兄が亡くなり、葬儀への参列のために休みを申請したが認められなかった。辞職願をしたが「やめないでくれ」と慰留された。