この小冊子は、海外出張中の合間にホテルや飛行機の中で徒然なるままに書き綴った旅日記をまとめたものである。この私の旅は、月の3/4をホテルと飛行機の中で睡眠をとり、昼夜の別なく働く生活が一年以上続いた。それは、阿修羅の如き旅であった。緊張と苦悩と悲哀が複雑に入り交じった長い戦いの日々を、時空を越えて過ごしてきた。
朝はニューヨークで仕事、夕刻にロンドンに向けて発つ。飛行機の中で軽い夕食をとって数時間眠るとヒースロー空港に到着。ニューヨーク時間で真夜中の2時だが、ロンドンは翌日の朝7時。ホテルにチェックインしてシャワーを浴び、背広に着替えて9時からの仕事を開始。行く先々のホテルやオフィスでいくつかのFAXや伝言が待ち構えており、くつろぐ間もなく電話をかけまくりFAXや電子メールの返信を出す。経営方針の決定、開発・営業部隊との会議、世界の顧客訪問、協力企業との提携折衝・契約、訴訟対策……
そんな出張の連続であった。海外出張中の仕事は昼夜を問わず、時間と空間の壁を乗り越えなければ成り立たない。しかし、そんな生活が続けば、健康に自信のある私でもいつかはプッツリと切れる危険を承知している。
息抜きも必要である。機会があれば時と場所を問わずに睡眠を貪り、好きな本を読み、その土地の名所旧跡を訪ねる。ときには偶然立ち寄った小さな村のパブの親父さんと世間話に興ずる。自分なりにリラックスし、気がつかないうちに溜まっているストレスを解消するための時間を割く。家族への絵はがきや親しい友人への電子メールも気分転換のひとつである。
旅の途中で心に残るなにかがあると、仕事で持ち歩いていたNoteBook(その後Pocket2)を叩いた。親しい友人への旅先からの便りだったり、仕事の連絡・依頼の電子メールを送るついでに、ちょっとした話題を追加したりしていた。そのうちに、そんなメールを自分自身の旅の記録として残しておこうと思うようにもなった。特定の人を意識したメールは、普通オンラインで一気に書いて送っており、手元に写しが残ってないものもある。途中から、できるだけ残すようにして、あとからそれを旅日記風に一人称で書き直したり、である調に編集したものが文書ファイルに溜まってきた。
そんな雑文をひとつにまとめたのがこの小冊子である。一瞥して興味がなければゴミ箱に捨てていただいて結構である。欧米の文化や社会情勢、時の話題など種々雑多で、なんの一貫性もテーマもない。つまらぬ随筆とでも思って気楽に眺めていただければ幸いである。