科学技術計算の性能評価指標 S−MIX開発

FMIX-Sは、代表的な科学技術計算ジョブの性格を反映した画期的な性能指標で、他機
種比較や性能見積りに幅広く利用された。これが実施に移された昭和49年は、IBM互
換機Mシリーズが発表され、当社のその後のコンピュータビジネスが大きく転換すると
きでもあった。当時、巨大科学計算の需要に答えるためのF75アレイプロセサ開発と
、この後継機種として、最新鋭のMアーキテクチャを使ったベクトルプロセサ(VA/VB/
VC) の開発検討が開始されていた。
事業部と一緒に進めるアレイプロセサ開発委員会の活動の一環として、巨大科学計算
ジョブの性能評価を進める中で、次第に明らかになってきたのは大別するとつぎの三点
であった。第一は、ソースコードの数パーセントの部分が全実行時間の90パーセント以
上を占めるジョブが多いこと。第二は、同じ分野 (たとえば構造解析) のジョブでも性
能に大きなバラツキがでること。第三は、数値解析精度の確保が性能に大きな影響を与
えること、であった。これは代表的ジョブの性格というより、それらのジョブで使われ
ている数値解析手法とデータ( とくにマトリクスデータ) の性格に起因していることに
着目すべきであることを示唆していた。
航空宇宙、気象予測、原子力、構造解析などのコードを分析し、そこで用いられてい
る解析手法の抽出とその実行性能を測定する作業を行った。同時に、ハードウェアモニ
ターを使って、モデルコードのハード命令出現頻度を測定し、G-MIX に代わるS-MIX な
る指標を導き出した。この結果、現実の科学技術計算コードでは浮動小数点演算命令の
出現頻度が G-MIXよりはるかに高いことがわかった。また中でも倍精度演算命令の頻度
が高く、これがCPU 実効性能に大きな影響を与えることが明らかとなった。さらに、あ
る解析手法 (たとえばコレスキー法) を採用しているコードでは、浮動小数点演算より
もブランチ命令の出現が非常に多いことが定量的に確かめられ、同じ分野のコードでも
使用する解析手法により実行性能にバラツキがでることが明確になった。
このようにFMIX-S開発の経験を踏まえ、現実のアプリケーション・コードを定量的に
分析・測定することにより標準化・定式化したS-MIX は、新規開発機種のハード性能設
計にフィードバックされ、技術計算の性能指標がより正確となった。具体的には昭和50
年に出荷開始されたM190の技術計算商談の試計算ジョブの実測値とS-MIX 試算により、
ハード命令の改善が図られ、M200開発につながっていった。